厚生労働大臣協議

2020年度大臣協議の報告

2020年度大臣協議 会場全体像 Zoomモニタの大画面

1 2020年度大臣協議の開催~Zoom活用と全国原告団代表挨拶

2020年度の定期協議(厚生労働大臣が出席する協議なので、私たちは「大臣協議」と呼んでいます。)についてご報告いたします。

2020年8月18日、厚生労働省内で開催されました。厚労省からは加藤勝信厚生労働大臣以下、事務局が出席し、我々薬害肝炎全国原告団弁護団と向き合いました。

今年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の状況をふまえて、協議参加者は大幅に減少させることにしました。

一方で、大臣協議の会場にはモニタ・カメラ・スピーカを設置した上、協議で発言する原告の一部は、ご自宅からウェブ会議ツール(Zoom)を利用して映像で参加するという初の試みも実施しました。

まず、全国原告団の浅倉美津子代表が作成した挨拶文を、当日参加した原告が代読し、以下のように、大臣協議に向けた思いを伝えました。

「今年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、例年のように各地から多くの原告の方が厚生労働省に参集することができず、異例の形で行わざるを得ませんでした。しかし、この場にいない原告もまた、全神経を集中して加藤大臣のひと言ひと言に耳を傾けています。そのことを心におとめください。私たち原告団の要求、質問から逃げることなく、患者や遺族の切実な訴えを真摯に受け止め、誠実な答弁、誠意ある対応をどうかよろしくお願い致します」

以下、担当者から各テーマについて報告します(東京弁護団 晴柀雄太)。

2020年度大臣協議 加藤厚労大臣と向きあっている写真

2 個別救済

2020年度大臣協議において、個別救済では、以下の2点を取り上げました。

  1. 劇症肝炎患者の救済問題
  2. 病院調査が進んでいない点
(1) 劇症肝炎患者の救済問題

まず「劇症肝炎救済問題」とは、C型肝炎ウイルスに汚染されたフィブリノゲン製剤の投与を受けた患者の方が、投与直後の急性症状が劇症化し、治療の余地無く、製剤投与から約1ヶ月半くらいで亡くなってしまうケース(劇症肝炎ケース)のC型肝炎救済法における救済方法のあり方についての問題です。

国は、C型肝炎救済法における条文の記述からは、劇症肝炎ケースは単なるC型肝炎感染被害の方と同額(感染被害での賠償額)での賠償しか受けられないと主張し、フィブリノゲン製剤等によってC型肝炎に感染し、亡くなってしまった方が受けることができる賠償額(死亡被害に相当する賠償額)は適用されないという姿勢を示しております。2019年度の大臣協議においてもこの問題を取り上げましたが、今回は法改正ではなく、原告団・弁護団と厚生労働大臣との協議による解決等を中心に求めました。

しかしながら、加藤厚労大臣からは、この問題は法改正が必要であって、原告団・弁護団との個別協議では解決ができない問題と考えているという内容の回答があり、実質的に拒絶内容の回答がなされました。今後において、この問題については、立法的解決のほか司法的解決を含め、引き続き解決に向けて取り組んでいくことになります。

(2) 病院調査が進んでいない点

二つ目の病院調査が進んでいない問題については、加藤厚労大臣が目標として明示している、2022年1月までにすべての投与被害者宛に製剤投与等について告知するという目標達成がほぼ絶望的ではないか、国は病院調査が進んでいない点をどのように考え、今後進めていく予定であるのか、を問いただしました。

厚労省が掲げた目標時期まであと約1年半となっておりますので、最初に、現時点の投与判明者数や、調査未了病院数を問いただしたところ、加藤厚労大臣からは、投与判明者2万3339人のうち、未告知者が9574名もいることが明らかにされました。

さらに、確認作業に着手すらしていない病院が14、確認作業中の病院が22という状況の説明がありましたので、弁護団からは特に東京所在の大病院においてまだカルテ調査がほとんど進んでいない病院の実情であったり、投与者が判明しても住所調査が必要なことから告知をしない対応をしている病院の実情を示し、これらの病院の調査をすべてあと1年半で終える目途が立っているのかを問いただしましたが、加藤厚労大臣からは、正直病院調査への対応が進んでいないと認識しており、今後、具体的な検討を弁護団・原告団と協議して対応していきたいという回答がありました。

この病院調査があまり進んでおらず、約1万人の投与判明者に告知がされていないということは、同席していたマスコミにおいて驚くべき内容であったようであり、大臣協議後の厚生労働記者クラブでの会見においては、テレビが入り、この問題について多くの記者の方から質問を受けました。この会見の模様はNHKのニュース等にて報道されました(東京弁護団 髙井章光)。

2020年度大臣協議 4~5人並んでパソコン画像からも参加している記者会見の様子

3 再発防止(医薬品行政等監視・評価委員会の発足について)

(1) 医薬品行政等監視・評価委員会の発足について

最終提言から10年を経て、ようやく医薬品行政等評価・監視委員会の設置を定めた改正薬機法が本年9月1日に施行されることとなりました。10年で一体何人の大臣に向きあい、原告団の思いを伝えてきたかを思い出すと、感慨がありました。

前回の薬機法改正(2014年)では、原告団の機運は高まっていましたが、議連及び、厚労の提示する内容は容認できず、やむなく見送ることを選択しましたが、直後、私たち原告の落胆はかなりのもので、再度、これに立ち向かう気構えが必要であったことなどを思い出していました。

この新しい医薬品行政等監視・評価委員会発足にあたっては、委員会が設置された趣旨を踏まえることが大切です。過去の薬害の反省については改正法の提案理由にそのことは明記されていませんでしたので、この委員会が設置された経緯を明らかにすることは大切だと考えました。

また、私たちは、この評価・監視委員会については人選が重要だと考えていました。厚労省は、医薬品行政等評価・監視委員会の委員を選考する委員会を設置して選考にあたっていたので、委員選考のあり方については、原告団・弁護団と厚労省との作業部会においても、薬害被害者の意見が十分に反映されることを求めて協議を重ねてきました。

監視・評価委員会の活動が実効的なものになるには、財政的裏付けを伴った今後の運用こそが大切だと言えます。

(2) 本年度の大臣協議におけるテーマ

そこで、2020年度の大臣協議では、こうした観点からの協議をすることにしました。

2020年の厚労大臣への質問は、新しく評価・監視委員会が発足することを踏まえ、その意義を明らかにし、また、人選において委員会が設立された趣旨が反映されるよう、以下の質問をしました。

  1. 医薬品行政等評価・監視委員会の設置趣旨は、最終提言が薬害再発防止のために提言した第三者組織を実現したものであると認識しているか。
  2. 監視・評価委員会の活動の独立性を確保するという観点から委員の人選等について新たな仕組みを作る必要があり、さらに予算確保がなされるべきではないか。

厚労大臣は、評価・監視委員会の設置に至るまでの経緯に言及した上で、薬害再発防止に大きな一歩を踏み出す旨表明するとともに、関係者へのこれまでの理解・協力に対して感謝の意を示されました。

また、委員会がその機能を十分に発揮できるよう委員会の意見を尊重し、連携しながら医薬品等の安全確保及び薬害再発防止に取り組んでいくとともに予算の確保等にも努力していくという回答がなされました。

私たちが望み、法律として成立した委員会ですが、大臣交渉の席に再発防止班の九州原告団代表の小林さんがご都合により、参加できなかったことが大変残念でした。前回の薬機法改正時に成立を見送った後、原告団弁護団が再度、再起動できたことは大変良かったと思いますが、それには仕事を持ちながら、再発防止班の班長として立ち位置を示してくれた小林さんの存在は、大変重要な立場でした。

仕事をこなしながら、できる限り、原弁と行動を共にしてこられた小林さんを思いながら、今年の大臣協議に臨んだことを一言申し添えておきたいと思います(東京原告団 泉祐子)。

4 再発防止(薬害研究資料館)

(1) 薬害研究資料館の現状

最終提言は、「薬害に関する資料の収集、公開等を恒常的に行う仕組み(いわゆる薬害研究資料館など)を設立すべきである。」としました。

これを受けて、厚生労働省は、「薬害資料データ・アーカイブズの基盤構築に関する総合研究」という課題名で研究班を立ち上げましたが、今日に至るまで、薬害研究資料館自体は実現していません。

また、厚生労働省は、薬害研究資料館とは別にPMDA内に薬害の歴史展示室を設置し、公開を始めていました。

(2) 本年度の大臣協議におけるテーマ

そこで2020年は、以下の3つのテーマを掲げて、大臣協議に臨みました。

  1. PMDA内に設置された薬害の歴史展示室は、最終提言に基づく薬害研究資料館でないことを明らかにすべきである。
  2. 薬害資料の収集・公開等を恒常的に行う仕組みの検討を厚生労働省において主体的に取り組むべきである。
  3. 厚生労働省は、集中的に資料収集・整理を行うための場所の確保や予算・人員の増強するべきである。
(3) 田村厚労大臣からの回答

厚労大臣からは、PMDAの薬害の歴史展示室は一定の効果があることを認めつつ、薬害研究資料館の設立は引き続き残された課題であるとの認識が示されました。

また、薬害に関する資料について、資料の分類方法の検討などといった学術の整理以外の課題について、厚労省として引き続き関係者の意見を伺いながら整理を進めていくとの決意が示されました。

さらに、研究班において他の施設や諸外国の事例の整理を行うとともに、作業部会などでの議論や、被害者団体と意見交換をしながら課題の解決と整理に向けた検討を進めていきたいという回答がありました。

(4) 今後の課題

薬害被害者の資料は、多くの被害者団体において、まさに失われつつある状況にあるのではないかと危惧しています。

薬害研究資料館の設立に向けた課題はまだ多く残されていますが、大臣から課題の解決と整理に向けた検討をする、という回答を引き出せたことは、一歩進んだのではないかと考えています。

私たち薬害肝炎も最終提言から10年が過ぎましたが、まだきちんとしたロードマップは出来ていません。

今年3月PMDAでの薬害展示室の試行を得て今後本格的な薬害研究資料館の設置に向け、厚労省、研究班とともに協議し、私たちが望んだ資料館を元気な内に実現したいと思いました(大阪原告団 武田せい子)。

2020年度大臣協議 原告団弁護団側の列席者

5 恒久対策(肝がん・重度肝硬変患者の治療費助成制度の見直し)

(1) 昨年度の大臣協議後の動きと今年度の要求項目について

昨年度の大臣協議では、肝がん・重度肝硬変患者の治療費助成制度(平成30年12月開始)の要件が厳しいため、要件緩和の必要性について根本厚労大臣(当時)へ質問しました。これに対して、根本厚労大臣は、「スタート直後の制度であるから、まずは実態把握をする」という答弁に終始しました。

その後厚労省は、2021年度から助成の要件を一定程度緩和する方向で検討していることを明らかにしました。

これを受けて、今年度の大臣協議では以下の3点を要求することにしました。

  1. ① 緩和される要件の下でも助成対象とならない重症患者が多数存在するため、更なる要件緩和を検討すること。
  2. ② 助成要件の緩和後すぐに、国が制度の月ごとの利用状況を把握し、その情報を患者団体と共有すること。
  3. ③ 2021年4月より、緩和された要件による助成を全都道府県で一斉に開始すること。
(2) 加藤大臣の答弁

加藤厚労大臣からの答弁は、以下の通りでした。

まず①について、更なる要件緩和の検討については言及せず、9月の概算要求も迫っていることから、患者団体の意見も参考にしながら早急に見直しの内容を固めたい。

②について、これまでも制度の実施状況については、肝炎対策推進協議会で公表している。今後は、月ごとかつ都道府県ごとの実施状況が公表できるように都道府県と調整を行っていきたい。

③について、新制度運用については、2021年4月から全都道府県で円滑な実施を目指して準備を進めていく。そのためにも、見直し内容を早期に確定し、各都道府県に周知していく。

(3) 大臣協議を終えて

今年度の大臣協議では、助成制度の対象とならずに、肝がんと重度肝硬変で昨年お亡くなりになった二人の原告さんのお話を交えながら、更なる要件緩和について要求しました。

残念ながらこの点についての大臣の言及はありませんでしたが、重症の患者さんにとって闘病は時間との闘いであり、一刻も早い支援が必要です。

私達原告団は、来年度からスタートする新たな要件による助成制度を注視しつつ、すべての重症患者さんへ医療費助成制度が届くよう、更なる要件緩和の実現に向けて今後とも活動していく所存です(九州原告団代表 出田妙子)。